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124-3
作者:村上香住子  出版社:文藝春秋  出版年:2008年2月 

『巴里ノート』

今現在のパリの熱い息遣いをそのまま体感してほしい

「あとがき」より
微細な砂粒が、さらさらと指の間を擦り抜けて落下してく。その指の根っこの感触は、くすぐったくもあり、心地よくもあり、それでいてどことなく寂しくも感じられる。それが再び掌に戻ることがないからだ。

20年間、パリに特派員として暮らし、そして2年前東京に帰ってからも幾度となく渡仏しているが、あの熱狂的で、ロジカルで、どことなくよそよそしい表情をみせる都市、パリとの関係は、そうした砂粒が流れる様に、似ているような気がしてならない。
どんなに掬い上げようとしても、けして自分の掌の中にすべてを握りしめることはできないし、指の間から微量ずつこぼれ落ちていく。そうしたものすべてを、すっかり喪失してしまわないうちに、些細ではあるが日常的な体験や現在フランスの置かれている状況を、ありのままに、できる限り事実に即して記しておきたいと思ったのが、本書が生まれるきっかけとなった。
そうはいっても、そこには思い違いや誤った見方、早急すぎる結論が生じているかもしれないし、自分なりにまっすぐに歩いてきたつもりでも、離れてみると曲がっているということも、あり得るはずだ。又あまりにも思いつくままに書き連ねてしまったばかりに、乱雑な描写になったり、あるいは素材を放棄してしまって、次のテーマに移行した印象を与えてしまうかもしれない。
それでもなんとかして私が伝えたかったのは、手垢のついたこれまでのパリではなく、今現在のパリの熱い息遣いであり、そのまま体感してほしい、という思いがあってのことだった。